探究の授業(GRIT)#2_高校3年生の活動:模擬国連
辻誠一です。
思えば、私が情報科であることは皆さんにもご理解いただいているかと思いますが、探究に関してあまり執筆できていないことに気がついてしまいました。読者の皆さんには本校独自の探究活動について、情報と同じくらい知ってもらいたいですので、今回は久々にGRIT(Global Research and Inquiry Time:本校での「総合的な探究の時間」の名称)について、特に、この時期は高校3年生が「模擬国連」という本校の代表的な活動に取り組んでいるため、その内容を書きたいと思います。
●模擬国連とは
そもそも「模擬国連」について、私も専門ではありませんが、分かる範囲で説明いたします。
模擬国連とは「学生が各国の大使になりきり、実際の国連の会議を模擬する活動です。各大使は、会議準備として担当国や議題についてリサーチを行い政策を立案します。会議では自国の政策をもとにそれぞれの国益を考慮しながら、国際社会としての問題解決に貢献するため、演説や交渉を行います。」とグローバル・クラスルーム日本委員会さんのHPに書いてありました。
要は議題があって、生徒たちは各国大使になって国益を考えながら交渉し、課題解決していくという取り組みです。最後に決議案を作成し、採決していくということになります。
このプログラムの大きな目的は
・生徒たちが何人かのグループになって各国の大使になる
・各国は何かしらの国益があり、それを守らなければいけない
・その事情も踏まえつつ、全体的な合意をどのようにしていくか
といった所にポイントがあると思っています。
個人に置き換えると、高校2年生までは世界的な問題をインプットし、自分の意見をアウトプットできるようにしていますが、互いが互いの意見を発信するにとどまっているように感じています。
ですので、このプログラムの最終的な目的は、相手の立場も考えながら、より良い方向に持って行くにはどのようにしていくべきかと言った「合意形成」にあると考えています。「自他共の幸福」こそ、本校の目指す人物像です。
●今回の議題はなかなかハード??
さて、理屈としては立派なお話ですが、議題によっては大きく意見の割れるなかなか大変な内容になっています。
この2年間は「環境問題」を題材に取り上げてきました。環境問題は全世界的な問題となっていますが、主に環境破壊をしてきたのは現状の先進国。開発途上国は発展の権利も妨げられるし、気温が上昇すれば海面上昇もあり、国自体が海に沈んでしまう国もある。そういった所の合意形成はなかなか大変なものがあったと思います。
そして、今年の議題ですが、実はこの模擬国連はちゃんとした全国大会等があります。(本校にも「模擬国連部」と言うクラブがあります)
そこで出された昨年度の議題は「ロシアの侵略に起因するウクライナの⼈権状況」という時期はタイムリーながら、国によっては意見が大きく割れそうな内容となりました。今年はこのタイムリーな議題をもう少しアレンジし「ウクライナにおける子ども達の人権状況」というものにしています。
どうですか、皆さん?考えたことありますか?ロシアがウクライナに侵攻したところまでは考えても、その中で子どもがどういった人権侵害が行われているか、どのように人権を守るかといったことを、私自身、この議題が決まるまでは思いが至りませんでした。これを高校3年生が議論していきます。これ議題に決めた学年の先生方の思い、勇気がすさまじいです。
本校の創立者がおっしゃった世界市民の条件である「身近に限らず、遠いところで苦しんでいる人々にも同苦し、連帯しゆく『慈悲の人』」を体現していこうという試みとなりました。
●GRITの内容を深める「国際課題」と言う授業
本校の生徒がとてつもなく賢く見えるという意見をいただいたことがありますが、多種多彩な生徒がいます。野球や陸上を中心にクラブに力を入れる生徒なども当然いますし、受験クラスは受験に特化しているため少し別ですが、一般的なクラスはいろんな層の生徒が入るため、私もどの生徒を照準にして授業をすべきか実は結構悩んでいます。
その面から言っても、先ほどの「模擬国連」と一言で言っても、ルールなどをしっかり把握する必要があります。ルールを知るだけでなく、先ほど書いた各国の国益もあるように…。そのことを念頭に置きながら、話を進めていきます。ルールを知りながら、自分たちの主張もして相手と合意形成をするなんて、なかなかのマルチタスクです。
その中で、今までどうしても手薄だったところが「議題となっている内容の理解がGRITの授業内でできない」ということでした。
反対に今までできたことは、
・自分の国の立ち位置や政策を紙にまとめる(PPP)
・各国で国としての提言をまとめる(クローズ作成)
・模擬国連のルールの理解
かなり簡単に書きましたが、どれもこれも1日程度で終わるものではなく、何回もかけて行っていきます。しかもGRITは各学年の主任、担任を中心とする学年団で運営していただいています。いわゆるほぼ全教員が携わっていると言ってもいいでしょう。しかし、全員が議題に対して専門知識を持っているわけではありません。
本年は新学習指導要領の完成時期にもあたります。新たな教科、科目が今の高校3年生から始まっています。そこでその機会を利用し、今年から学校設定科目で「国際課題」という科目を設置しました。
この科目は地歴公民科の教員に担当していただき、各クラス1単位設置。主に模擬国連に関する話題などを提供していく流れができれば、と言った思いで設置した科目です。以前の記事でも記述しましたが、各学年ごとに毎週1回ずつ、1時間弱打ち合わせをしています。今回の高校3年生の打ち合わせにはこの「国際課題」の科目担当者も入っていただいています。
今回はここで模擬国連担当者(GRIT担当者)と「国際課題」の科目担当者で、どちらの授業でどこまで行うかと言った打ち合わせを行い、情報共有。より円滑に模擬国連が進むように、計画し、打ち合わせをしました。
「国際課題」の科目担当者はものすごく熱心に授業で取り組んでいただき、様々な動画や、ニュースソースをもとに「なぜロシアがウクライナに侵攻したか」といったことをロシア側の視点から見る内容なども授業で紹介。生徒は議題である「ウクライナにおける子ども達の人権状況」のため、通常、ロシアが一方的に悪者といった考え方に陥りがちですが、もう一方から見るとそれはそれで事情があることなどを知り、議論を深める有効な授業を常に用意されていました。こういったご協力あってのGRITです。この教員の思いに生徒も答え、自分の国がどういった立ち位置で関わっていくのかなどが一層深まっていきました。
●そして本番1日目
さあ、そんなこんなで、10/26(土)に模擬国連の1日目が開始されました。実は受験メンバーを中心とする7・8組は1学期中に終了してしまったため、2クラスを一つの世界として会議を開催しました。1・2組で一つの世界、3・4組で一つの世界、5・6組で一つの世界、ということで都合3つの世界となりました。
それぞれそれなりに大きい別々の会場を3会場用意し、会議が開催されました。
模擬国連は公式な会議やロビー活動を通じて、決議案を作っていくことも大切です。国益にかなっているか、その駆け引きも重要です。
多くの年は、学年を一つの世界として模擬国連を行っていますが、その場合、90カ国以上存在する規模感は圧倒されるものの、あまり知らない国だと興味が湧かない事や、人数が多すぎて、何もせずに遊んでしまう生徒も多少存在していました。
この様に人数をせいぜい2クラス程度に絞って行う会議は、なじみのある国を担当し、かつ、遊ぶと逆に目立ってしまうような人数になっていることが功を奏しているようではないかと思っています。
さあ、果たしてどのような決議がなされるのでしょうか?
実は本日11/9(土)、本番の2日目が行われました。この模様は追って報告の予定です。また発信が遅くなるかもしれませんが、何卒ご了承ください。