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探究の授業(GRIT)#1_「問いの立て方」って難しいけど、やり抜く力を!!(2年生の取り組み)

お久しぶりでございます。恥ずかしながら帰ってきました…
情報科の辻です。

やる気はあったのですが、気がついたら6月…
スタートダッシュには成功したものの失速してしまいました。記事のネタはたくさんあるので、気持ちを切り替えて投稿していきます!よろしくお願いします。
まずは情報科の話ではなく、探究の授業についてです。


◆GRITって何?

本校の「総合的な探究の時間」の名称は「GRIT」と言います。これは「Global Research and Inquiry Time」の頭文字をとったもので、日本語に訳すと「地球的課題の調査と探究の時間」という意味になります。この名称自体はスーパーグローバルハイスクール(SGH)時代に名付けられた名称です。
そもそも「GRIT」という英単語も存在し、その意味は「根性」「負けじ魂」ということです。ですので、「地球的課題の調査と探究には根性がいる」と言った意味合いも含まれることになります。この言葉は本校の英語科の教員が考えたのですが、「『地球的課題の調査と探究の時間』って意味合いを英語に訳すとどうなるか?」というところから始まって、英語にして頭文字を取ってみるとたまたま「GRIT」になったそうです。このプログラムが大体月2回(隔週の土曜日)に3時間授業のあるうちの2時間を使用しています。

◆GRITって何をしているの?

さて、その「GRIT」プログラムについては、各学年概ね取り組む内容が決まっています。
◯1年生(インプットの期間)
「環境」「開発」「人権」「平和」の4分野をテーマに、地球的課題にはどのようなものがあるかを主に考え、学び深める期間
◯2年生(アウトプットの期間)
1年生で学んだ内容をベースとしながら、身近でテーマになる問い(リサーチクエスチョン)を立てて、1年間調査・探究し、最後に保護者発表やポスターセッションを行う
◯3年生(合意形成の期間)
お互いにアウトプットした内容をもとに、どのように意見をすり合わせ、合意形成していくかに焦点を当て、主に行うアクティビティとして模擬国連を行い、最終決議を行う

各学年の取り組む内容の方向性や進捗を、各学年ごとに毎週1回ずつ、1時間弱程度打ち合わせをしています。頭がパニックになりそうなときもありますが、プログラム自体は何とかなっています。
今回はその中でも2年生(アウトプットの期間)のことを書いていきます。

◆2年生(アウトプットの期間)の取り組み

先ほど書いた通り、2年生になったら5人程度で構成されるグループに分かれて、身近でテーマになる問い(リサーチクエスチョン)を考えます。これが1年生のインプット期間である「環境」「開発」「人権」「平和」の4分野とどのような関わりがあるのか?
意外にもこれら4分野と「SDGs」は相性が良く、卑近で身近な問いにおいても「SDGs」を中心とした4分野が該当していきます。

◆良い問いとは?(リサーチクエスチョン)

その関連性は良いとしても、果たして「どのような問いがいいのか?」というのが、他校の方も含めて最大の懸案ではないでしょうか。こういったアクティビティをしていれば分かるのですが、「問い」の良し悪しが、そのまま「探究」の良し悪しにつながってしまいます。ではどうような問いが良い問いになるのか。私が調べたところ、参考にさせていただいたのは、金城学院大学様のWebページからダウンロードすることができる「高校生のリサーチクエスチョンに関する評価基準」でした。

ここには玉川大学出版会より出されている「学びの技」より引用されていた「問いであって論題にならない6項目」が書かれていて、それをもとに研究された内容が掲載されていました。
その6項目とは、
1.大きすぎる論題
2.高度に専門的な知識を必要とする論題
3.予想・予言の類
4.「how to」もの
5.調べたことを羅列するだけのもの
6.調べればすぐ分かるもの
他の所でアレンジされているところはあるものの、結構色々な書籍でもこの様な概念は定着してきたのではないかというものです。私はこれに加え、「平和」や「安全」など人によっては解釈の変わる言葉(書籍によっては「マジックワード」とも言っている)があるとその後の探究もしづらいと思い、本校としては今の内容も含めた7つに抵触しなければ、リサーチクエスチョンとして認めることとして進めました。

◆作り方さえ分かれば誰でも判定できる?

このようにリサーチクエスチョンの一応の定義はできたものの、「どこまでが『大きすぎる論題』なのか?」とか感性の問題が出てきてしまいます。明らかに「戦争はなぜなくならないのか」などは大きすぎるのは自明ですが、ここのすり合わせはなかなか難しいです。ですので、なんと昨年まではこの判定を私が1人で判定していました。

ちなみに判定方法ですが、先ほど書いたリサーチクエスチョンとはならない7項目に抵触していれば基本的には不合格です。採点は10点満点。各項目を合格していれば1点ずつ差し上げると最高7点。残りの3点分はこのまま進めていいかどうかを私が判定する項目です。

説明が遅れましたが、本校は1学年8クラス体制で1クラス当たりの人数が約40人前後。ということは1クラス8つのグループができます。それが8クラスですので計64グループ。64グループがリサーチクエスチョンになりうるかどうかを私の方で随時採点をしていく形にしています。圧倒的なマンパワー不足。いつもこの時期は正直グロッキー状態でした。

◆猫の手ならぬ「ChatGPTの手」も借りたい?

何とかならないかと思案していたところ、ChatGPTの開発を思いつきました。「そうだ、ChatGPTにある程度、リサーチクエスチョンを判定してもらうことはできないものか」と思い立ち、プロンプトを日々開発し、何とか一応の完成を見ました。現在は、生徒が作ったリサーチクエスチョンを、各教室の担当教員が私の作成したプロンプトのもと、7点満点で合格とするようにChatGPTが判定。7点取得したら私に提出し、私の目から見ても合格なものを合格(8点以上)とするといった二段階システムを採用しています。
これらのシステムはスプレッドシート上に組み込まれており、生徒がリサーチクエスチョンを入力すると自動的に採点が行われます。その後、誤りがないかの確認も含めて、私が採点する仕様です。

今回は出血大サービス。現在使用しているプロンプトを下記のとおり紹介します。ちなみに現状、ChatGPT4oを使用しています。

◆ChatGPTプロンプト(現在使用しているものを大公開!!)

#role - あなたはリサーチクエスチョンかどうかを見抜く専門家です。リサーチクエスチョンの採点を支援してください。
## goals 指定されたリサーチクエスチョンを7点満点で採点し、表示する
### prerequisite 最初の持ち点は7点で、規則に該当する項目があればその都度、1点減点する。厳密かつ詳細な採点が求められる。
#### Process - あなたは以下の内容にそのリサーチクエスチョンが該当するかを詳細に判定し、該当する場合は1点減点し、その理由を示す。
1. 広範囲にわたる研究や深い分析が必要で、短期間での完遂が難しく、1年では終えられない
2. 高度な専門知識を要求する内容で、一般的な大学生では分からないような専門的な知識が必要
3. 科学的根拠や客観的データに基づく研究ではなく、主観的な推測に依存しているため、予想や想像の域を出ない
4. 方法論のみに焦点を当て、深い理解や解析を伴わなく、How to的な「何かしらの仕方」だけを求めている
5. 単なる情報の列挙であり、理論的または実用的な洞察が欠けていて、調べても「結果の羅列」にしかならない
6. 簡単に解決可能な質問や情報で、ネットや本で調べたら、1週間もあれば解決する
7. 広く異なる解釈が可能で、具体的な答えを導き出すのが困難な平和」や「安全」のような曖昧で解釈が人それぞれの言葉が持つ力を意味する「マジックワード」が含まれている
- 最後に最終的にそのリサーチクエスチョンの点数が何点であるかを表示する。

◆実際の使用感覚

実際、「ChatGPT使ったけど、採点が甘すぎる」との声も聞きました。確かに、今まで「ChatGPT3.5」や「ChatGPT4」では判定が甘く、すぐ合格にしてしまうため、結局私の負担が多少増えるという状況もありました。しかしながら、明らかにリサーチクエスチョンとして基準を満たしていないものを見抜いてくれるだけでもありがたいと思っていました。

これが「ChatGPT4o」になったら、7項目のうち以下2つに対して、非常に厳しい判定をするようになり、ChatGPT時点で不合格が続出しました。
1. 広範囲にわたる研究や深い分析が必要で、短期間での完遂が難しく、1年では終えられない
2. 高度な専門知識を要求する内容で、一般的な大学生では分からないような専門的な知識が必要

私もその内容を見させてもらっていましたが、私としては
7. 広く異なる解釈が可能で、具体的な答えを導き出すのが困難な平和」や「安全」のような曖昧で解釈が人それぞれの言葉が持つ力を意味する「マジックワード」が含まれている
に抵触しているのではないかと見ています。
教室の担当教員もなぜ不合格なのかを生徒と一緒に考えてくれる雰囲気が醸成されたので、こちらの思いとしてはWin-Winになったと思います。ただし、なかなかリサーチクエスチョンが合格しないグループがずっと残り続けるのも問題です。本校はこの時期に創価大学への研修行事があり、教授に対して自分たちのリサーチクエスチョンの発表と探究の方向性をプレゼンさせていただくことになっています。リサーチをする時間の問題もあるため、実際は私自身も直接話をしながら、どうにか研修に送り出したいと考えています。

◆生徒はリサーチクエスチョンに必死

担任に聞いてみると「作家先生のように『これじゃ、リサーチクエスチョンにならない。んー』と懸命に考えている姿を見ると、頑張っているなと思って応援したくなる」と言った声も聞こえてきます。そんな生徒の頑張りによって、個人的に面白いと思ったリサーチクエスチョンをいくつか列挙します。

◆私が良い問いと思う例(結構身近なものが好きです)

・鉛筆の生産量は年々下がっているのに、シャープペンシルの生産数が年々上がらないのはなぜか。(SDGsGoal 4,12,15)
・なぜ、学校の時計は液晶で数字が表示される時計ではなく長針、短針で時間を見るアナログ式時計が使われているのか。(SDGsGoal 4)
・高校球児のユニフォームは汚れが目立つのになぜ白色のズボンが主流なのか。(SDGsGoal 4,10) 

私の知識不足かもしれませんが、答えがパッと思い浮かびません。ネットで検索しても、いわゆる質問サイトの答えのみで公的見解が見当たりません。2つ目の問いについては、私自身も本当に疑問を持っていて、生徒に時間を知らせる時、また自分が確認する時は数字表記の時計を見ます。数学の免許も持っている人間ですが、針の時計は見にくいケースがあります。私と同じ感性の生徒が書いたのでしょうか?

◆リサーチクエスチョンを考えさせる意義

これらのリサーチクエスチョンがすぐに解決したとしても、さらに新たなリサーチクエスチョンを生み出し、探究が深まればこの授業は成立しています。1年間かけて、生徒たちがどこまで物事を深めることができるか。これは外面的なものも多いとは思いますが、本校で最も大切にしている「校訓」や「五原則」などの内面的な探究、そして、世界の裏側で苦しんでいる人にも心を寄せながら探究していくために大いに役立つと思っています。外面的な変化が現れているところには、大体、内面の変化も現れることが多いと思います。どこまで生徒が「GRIT(根性)」を持って、身近な問題から世界を見つめて解決させていくことができるか。今後の生徒の奮闘に大いに期待したいところです。

それを私は草葉の影(情報科準備室の影?)からじっと見つめています。