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Realisticdreamer#5_やったことがある人、やったことがない人

こんにちは、関西創価高校教頭の佐藤進です。

今日は、子ども(生徒)の「やりたいこと」とどう向き合うか、について私の考えをお伝えしたいと思います。

はじめに、お断りですが、これから書くことは、佐藤進個人の考えであり、これが絶対的な正解であるとか、誰かにこの考えを押し付けようなどとは考えていません。
子ども(生徒)の「やりたいこと」への向き合い方が「180度」変わった私自身の体験が、これを読んでくださる方の参考になればという思いで書いていきたいと思います。

学年主任をさせていただいている時に、生徒から相談を受けました。
その生徒は、音楽の道に進みたいと考えていて、大学も、音大への進学を希望していました。ただ、保護者と意見が合わずに悩んでいたのです。
生徒から話を聞いてみると、保護者のご意見は次のようなものでした。
・芸術の道は大変で、才能がある人しかものにならない。
・また、音楽の道に進めたとしても、きっと苦労が続く。
・我が子が、そんな大変な道で苦労をするのは忍びない。

皆さんは、この保護者の意見をお読みになって、どう思われるでしょうか。
当時の私は、この保護者の考えを(そう、考えるのは当然かな)と感じていました。私も二人の子どもの親として、同じような反応をするだろうなと思ったのです。
ですので、生徒には「あなたの人生なんだから、あなたの考えが大事だと思うけど、保護者の考えももっともだと思うので、もう一度、よく話し合ってみれば」と、今思えば、実に無責任で残酷な答えをしました。

そんなある日、中西校長(当時、現学園長)から「植松努さんという方の『TED』がすごくいいので、ぜひ見てみれば」とのお話がありました。
「TED」というのは、個性的(?)なクマのぬいぐるみが出てくる映画ではなく、Technology Entertainment Designの略称で、様々な分野の著名人による講演会を企画・運営する米国拠点の非営利団体のことです。その団体が、世界のいろいろな場所で、カンファレンスを行っています。
これまでアップル社の創業者スティーブ・ジョブズさんや元大統領夫人ミシェル・オバマさん、ハリウッド俳優のアダム・ドライバーさんなど、幅広い分野の第一線で活躍する人々が独自の視点を共有しており、その講演の様子はyoutubeで「TED」と検索すると、大量にヒットします。
そのTED日本版の植松さんのお話がとても示唆に富む内容だったということでした。

早速、youtubeで探して視聴してみました。
※お時間がある方は、ぜひご視聴ください。

ご覧になった方、どうでしたか?

私はというと、見終わって、決して大げさではなく、「今までの考え方を改めねば」と思いました。
全編にわたって、私になかった視点、今まで求めていたことの答え、自身の生き方の参考となる指標に溢れていたのですが、なかでも生徒の「やりたいこと」への向き合い方(進路指導)については、ガツンと頭を殴られたくらいの衝撃を受けました。
植松さんは中学生時代に、宇宙に関する仕事がしたいという夢をもっていたのですが、その夢を学校の先生に否定されてしまいます。

僕は小学校に上がってすぐに担任の先生にものすごい嫌われたんです。僕が信じていたことやばあちゃんが教えてくれたことは、全部否定されました。僕の夢は、お前なんかにできるわけがないって、さんざん言われました。じいちゃんがなでてくれた頭は、先生にさんざん殴られました。とってもつらかったです。でもそれを助けてくれる大人はいなかったです。僕はその先生が言っていた言葉を忘れてませんでした。その先生は『どーせ無理』という言葉をよく使っていたんです。この『どーせ無理』という言葉がおそろしい言葉なんだなと思いました。これは人間の自信と可能性を奪ってしまう最悪の言葉です。でもとっても簡単な言葉なんです。これを唱えるだけで何もしなくて済んでしまうから。

植松努さんのTEDより

そして、後に次のようなことに気づくのです。

僕はこの『どーせ無理』、人間は最初から知らなかったはずだ、いつ僕たちはこんな言葉を覚えちゃうんだろうって考えたんです。
(中略)
みなさんは自分が宇宙開発できると思ってますか?宇宙なんて、よっぽど頭が良くないと、すごくお金がかかるって思い込んでませんか?国家事業だって思ってませんか?誰がそれを教えてくれましたか?それは、こんなことを教えてくれるのは、やったことがない人なんです。やったことがない人が、適当なやらない言い訳を教えてくれるんです。

植松努さんのTEDより

「やったことがない人が、やらない言い訳を教えてくれる」
私自身、まさにそれをやっていました。そして、今まで、良かれと思って「やらない言い訳」を押し付けてしまった、多くの生徒のみなさんに申し訳ない思いで一杯になりました。

もし、私の目の前に「将来、教員になりたんです。私になれるでしょうか」って、相談にきてくれた生徒がいれば、私は100%このように答えます。
「きっと、なれるよ」
理由は、「私自身、教員になることができたから」。
まさに、教員という仕事を「やったことがある人」だからです。

おそらく、お医者さんも、宇宙飛行士も、プロスポーツ選手も、アイドルも、デザイナーも、外交官も、政治家も、どんな職業であれきっと、目の前に自分の職業や立場を目指す若者がやってきたら、「きっと、なれるよ」と励ますに違いないと思うのです。

「無理」とか「難しい」とか「考え直した方がよい」などと、訳知り顔でこどもの夢を壊してきたのは、みんな「やったことがない人」だったのではないでしょうか。

今まで、そうしてきた人たちを責めることが目的ではありません。私もその中の一人だったのですから。
私は、この考え方に触れてから、次の努力をするようにしました。
①生徒の夢を頭から否定することは、絶対にしない。
②可能であれば、生徒の「夢の職業についている人」を探して、直接話せるような機会を設ける。

本校では、毎年、多くの職業の方に本校にお越しいただいて「キャリアガイダンス」講座を行っています。夢の職業の方と直接お話ができる、私の大好きな学園行事です。
しかも、とりわけ素晴らしいのは、お越しくださる方々の大部分が、かつて「キャリアガイダンス」講座に参加した、本校の卒業生であるということです。
今年も、この講座で「やったことがある人」たちが、高校生の背中を押してくださいました。きっと、参加した生徒のみなさんがそれぞれの夢に向かって、勇気をもって進んでいってくれると思います。

このNoteが、子どもの「やりたいこと」と、どう向き合うかを考えていただくきっかけになれば幸いです。